2019-2020 Chetna Organic からの活動報告
今年度の活動は、インフラ整備が遅れた辺境にあり、政府の支援も十分に受けられないTelangana州の8地域、Odisha州の6地域でプロジェクトが施行され、累計314の村、15,079世帯の農家が有機農法へ転換しました。農薬を多用する慣行農法から、環境や人体へのリスクを軽減し綿と穀類による増収を見込める有機栽培への転換支援を拡大しています。農家に経験と知識が蓄積され、生産力が向上しています。
1有機農法への転換支援
これまで、15,079世帯の農家へ対して有機農法転換支援が提供され、11,232世帯が有機農家として認証されました。今年度は、さらに1,000世帯の農家を受け入れ、持続可能な農業実践法(Sustainable Agricultural Practices)の導入を推進しています。
豊かな土壌は、収穫量に大きな影響を与えています。しかし、農家の知識不足と行政の不適切な方針が、土壌の質を酷く低下させていました。そのため、地域の土壌に適切であり、低コストで行うことができる様々な改善策(土壌改良・再生方法や、ミミズ堆肥、NADEP方式堆肥の作成方法、有機栄養物調整剤の使用方法、バイオマス苗の育成方法)が、チェトナによって農家たちに指導されました。
有機農法の研修の実施と規模の拡大は、より多くの農家の出費を減らし、収入を増加させました。今年度の有機農法の導入で、4,351トンの有機堆肥と液体肥料が生産されました。
整地
様々な堆肥の適用・研修・有機農家への見学は、農家の知識と経験を蓄積させる良い機会となり、彼らが有機農法転換を進めるモチベーションを高めています。
農家たちは学んだことを農地で実践し、実際に、持続可能な農業実践法(SAP)によって化学肥料や農薬にかかる農家の負担を大幅に削減することができました。
農家のスキル強化の結果、農作物の生産量が増加しました。今年度、プロジェクトに参加した各農家が、約700㎏の綿花を収穫することができました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を受けた市場が閉鎖されたことにより、綿花はまだ保管されています。
堆肥の準備
1-1農家の研修と農地見学
チェトナは土壌の質を高める有機農法の導入で、農家の生産力向上と収入増加を見込んでいます。そのため、チェトナは農家支援の一環として、農家たちのミーティング、オリエンテーション、研修の考案と実施を行ってきました。このように、有機農法転換支援の影響を広げる人材育成にも注力しています。
研修に関して、農家たちがこれから自立して有機農業を行えるように、トレーナー研修、ファシリテーター研修が実施されました。干ばつや洪水など、実際に農家が直面した問題に基づいて考案されたこの研修は、農業で発生する様々な事象に対応可能です。座学と実地で ①土地の準備 ②土起こし ③種子の収集 ④種子処理 ⑤種植え ⑥間作 ⑦芽かき ⑧畝づくり ⑨除草 ⑩除草準備 ⑪液肥の準備と使用方法を学ぶことができます。今年は100世帯の農家が研修に参加しました。
農家の研修
1-2エコセンター
エコセンターでは、低コストで簡単に農地へ導入できる持続可能な農業実践法(SAP)のモデルが展示されています。各地にあるエコセンターの存在は、周辺の村の農家も有機農法のことを学ぶことができるプラットフォームの役割も担っています。その他にも、水と土壌の保全活動や灌漑施設の整備が行われました。これらの活動は、農家の意識の醸成に繋がります。村でも有機農業に関心を持つ農家が、他の農家へ有機農法のメリットを共有し、有機農法転換を推進しています。
今年の栽培期間中には、1,376世帯の農家がエコセンターを訪れ、有機農業実践法を学びました。
堆肥の使用法展示
1-3CORCC ※の発展 ※ Chetna Organic Reserarch & Conservation Center
チェトナ有機農業研究・保全センター(CORCC)の施設整備により、センターの機能が強化されました。今年度は、水散布用のスプリンクラーと草刈り機の設置でより効率の良い水の使用が可能になりました。
さらに、非遺伝子組み換え種(Non-GMO)の綿花の種子増殖や、 野菜・穀物・豆類の栽培、苗床の育成、堆肥の生産が行われました。
今年度は、様々な地域から1,375世帯の農家がセンターを訪れ、持続可能な農業実践法(SAP)を学びました。
綿花栽培を検査する農家
1-4シードバンクの設立
過去に政府機関によってハイブリッド種子を用いた農業が推し進められたことで、市場で地域原産の種子が入手困難となった結果、現在いくつかの種が絶滅の危機に瀕しています。そのため、地域原産の種子の増殖と保存を目的としたシードバンクが設立されました。
今年もPBPの支援の下、Telangana州とOdisha州にあるシードバンクでは、種子の増殖と品種の保存活動が継続されました。
地域原産の種子展示
1-5シードメラ(種祭り)と国内イベント
Telangana州とOdisha州のすべての地域において、絶滅に瀕する地域原産の種子や、土壌の状態に適切な種子を使うことの大切さ、その種子の栽培法について学ぶことができるシードメラというお祭りを開催しました。有機農業に関する情報が展示されているだけではなく、実際に有機農業を営んでいる農家とその家族が参加し、農家間で地域原産の種子が交換されました。
チェトナはこのシードメラを支援しており、イベント内では種子保存と増殖活動の必要性やこれまでの行ってきた活動について情報発信する場を設けました。
シードメラ
1-6キビの間作
いくつかの地域では、従来からキビが主食として消費されていました。しかし、政府の食糧配給に関する方針でコメと似た作物が与えられたために、地域の村人たちは慣れていない食べ物を消費することになり、それが原因で健康被害を引き起こしていました。
農家世帯の健康状態の改善、そして小規模で農業を行っている農家世帯がより多くの食糧を確保することができるように、キビの間作が導入されました。
チェトナは、キビの栽培を200エーカー(約80万平米)の綿花畑で促進しました。今年度は、1エーカーあたり50kgのキビが生産されました。50kgのキビは、5,000インドルピー(2019年時点で約7,800円相当)分の価値があり、5人家族の世帯が3ヵ月暮らしていくのに十分な収入となります。
キビの間作
1-7多様な生産システムの推進
Telangana州とOdisha州に住む農家の家族は、綿花栽培以外で副収入を得る活動を行っています。ヤギの飼育、養鶏や家庭菜園が生産活動の一部に組み込まれ、農家の生活水準を底上げすることができました。
各活動の詳細は以下の通りです。
ヤギの飼育
ヤギは短期間で数を増やすことができ、飼育する世帯はヤギ肉や乳といった栄養のある食糧を得ることができます。今年度は、40ヶ所でヤギの飼育が進められました。それぞれ4匹のメスと1匹のオスのヤギで構成されており、育てたヤギを販売することで、世帯に必要な生活費を得ることができました。現在、地域の組合はチェトナに追加20世帯への支援を求めているところです。
ヤギの飼育
養鶏
今年度、50世帯を対象に、1世帯あたりオスとメスのニワトリのセットを支給しました。各世帯では、ニワトリが産む卵と、鶏肉はタンパク質が豊富な食べ物として消費されています。また女性たちは、ニワトリとその卵を市場で販売することで、卵は約5インドルピー(2019年時点で約8円相当)、鶏肉は1kgで約400インドルピー(2019年時点で約640円相当)の収入を得ることができました。
養鶏
家庭菜園
今年度、50人の女性が、裏庭での家庭菜園を推進するために選ばれました。彼女たちは、家庭菜園を行う方法を学び、野菜の種、果物と花の苗が支給されました。育てた野菜や果物は各世帯で消費される一方で、市場で販売し、週に約300~500インドルピー(2019年時点で約470~780円相当)分の収入を得ることができました。
家庭菜園
1-8転換期間中である農家への創業支援
チェトナは、有機農業への転換に関心を示し、積極的に協力している農家たちが、有機農法に転換できる機会を与えています。有機農家であることを示す証明書や、その他の必要物資が与えられ、今年度は新たに1,000世帯の農家が有機農法転換支援を受けました。農家たちは、栽培期間前、栽培期間中、収穫期間後に、持続可能な農業実践法(SAP)を学ぶために研修を受け、内部監査・外部監査ともに完了しました。昨年転換1年目であったすべての農家が、転換2年目に突入する予定です。
農家の内部監査
土壌試験
土壌試験は、転換1年目と3年目に実施されます。今年は、転換1年目である50世帯の農家から土壌サンプルを収集し、土壌の現在の状況を知るために研究所で分析が行われました。分析結果として、土壌の養分不足が判明し、現在チェトナの技術チームが対策をとっています。転換3年目に再び行われる土壌試験で、農家たちが有機農法のメリットを実感できることが期待されています。
土壌サンプル収集
2子どもたちの就学・復学・奨学支援
2-1奨学金支援
今年度は、教育を継続することが困難である50人の学生に奨学金を支給しました。この奨学金により、子どもたちは授業料を支払うことができ、その多くが卒業の日を迎えることができました。何人かの子どもたちはこの奨学金のおかげでコンピューター応用技術の習得や、農業や教育の学位取得のために進学する機会を得ることができました。
奨学金を受け取る子ども
2-2学校との架け橋 ブリッジスクールの運営
Telangana州内の子どもの退学率の高い地域では、学校から退学した子どもたちが普通学級に復学できるように学習を継続するためのブリッジスクールが運営されています。今年度は、17人の男の子、 39人の女の子が学習に参加しました。その結果、56人全員が普通学級に復学しました。
ブリッジスクールとは ?
それまで読み書きをしたことがなかった子どもたちが、学校に通うようになっても授業についていけず、また農業労働に戻ってしまうケースがあります。こういった子どもたちの支援のための補習学校が「ブリッジスクール」です。
ブリッジスクール
2-3補助教員の採用
学校では、MAAD活動を通して生徒たちの学習意欲を高めるために補助教員を採用しています。今年は18校が補助教員を受け入れました。補助教員は、十分な研修を受けた後に、生徒の理解が十分ではない科目の補修授業を開講し、MAAD活動で音楽、芸術、農業、ダンスの授業を行い、
子どもたちに学ぶことの楽しさを伝えています。
MAADとは?
子どもたちの個性を発揮させることを目指し、音楽(MUSIC)、芸術(ART)、農業(AGRICULTURE)、ダンス(DANCE)の授業がMAADです。この授業を通して、子どもたちにジェンダー平等、人権、子どもの権利、歴史や文化の大切さを教えることができます。
補助教員による授業(2016年年度報告書から)
2-4学校コンテスト
子どもたちの心身の健やかな成長を促すために、学校ごとに文化祭が開かれました。生徒たちの住む地域にある伝統文化への関心に沿って、補助教師が課外活動を開講しました。文化学習だけではなく、科学展や学校交流イベントを開催しました。学校交流イベントに関して、今年度は計30の学校が参加し、それぞれの生徒が自身の学びを披露しました。
学校間交流会
2-5綿花栽培農家の子どもに必要なライフスキルの育成
Telangana州の2か所で、服の仕立て屋になるための職業訓練校が建てられました。収入は必要としているが、教育に集中するために過酷な労働は希望しない64人の女性が、職業訓練を受けました。訓練終了後には、ほぼ全員が政府から支援を受け、新しい事業を始めることができました。その他の何人かは近くの仕立て屋で働いています。
服の仕立てる女性